「NISA法」を作りましょう!:財務省のNISA恒久化反対論への反論

皆様、こんにちは。にこいちです。

 

 今日は、NHKの記事「5度目の正直? NISA変わるか」(NHK経済部記者 真方健太朗さん/横山太一さん)を読んで考えたことを書きます。
 この記事はファイナンシャル・ジャーナリスト竹川美奈子先生に教えて頂きました。竹川先生、ありがとうございます。

www3.nhk.or.jp

 NISAの恒久化は金融庁が何度も要望したにもかかわらず、財務省から反対されたため、実現していません。
 

1.NISA恒久化に対する財務省の反対の理由

(1)”NISAは租税特別措置法にもとづく税法上の特例であり恒久化すべきでない”

   上記記事の中でこの点に触れている箇所を引用します。

 恒久化は金融庁が過去4度、要望したにもかかわらず認められませんでした。
その理由について、財務省の幹部は次のように話しています。
 財務省幹部 NISAが非課税なのは、租税特別措置法にもとづく税法上の特例として投資を促進するために実施しているからだ。これをいったん恒久化すると、効果を検証して制度を見直すことが難しくなってしまう。時限的な制度として、期限が来るたびに見直しの議論を行うべきだ

 租税特別措置法(以下「措置法」という)は、所得税法人税などさまざまな国税に対する特例(特別な例外)を定めている法律です。1957年に公布され、毎年のように改廃されています。

 NISAは所得税(譲渡所得)の特例とされており、根拠法令は措置法9の8、9の9、37の14、37の14の2等です(No.1535 NISA制度|国税庁)。

 

(2)”NISAを恒久化したり拡大したりすると「金持ち優遇」と批判される”

 再度、記事から引用します。

年間投資枠や非課税限度額をどの程度拡大するかという点もポイントです。拡大しすぎると「金持ち優遇」だという批判を招くおそれがあります。
財務省からは、限度額の拡大に慎重な意見も出ています。

現在のつみたてNISAの非課税限度額は800万円ですが、総務省が5年ごとに調査している「全国家計構造調査」によれば、世帯ごとの金融資産の中央値は650万円(2019年度)。
すべてをNISAで運用したとしても上限額には達しません。

つまり、今の時点でも上限まで投資ができている世帯は少なく、拡大は必要ないのではないかと見ているのです。

財務省の担当者は次のように指摘します。

財務省 担当者
「限度額を上げると富裕層がさらに優遇を受けることになるのではないか」

 

2.財務省に対する反論

(1)「NISA法」を作りましょう

  ”NISAは租税特別措置法にもとづく税法上の特例だから恒久化できない”というのであれば、NISAを恒久化するために新たに法律を作りましょう(「NISA法」というネーミングは竹川美奈子先生の秀逸なアイディアです)。
 「特例」は”特別な例外”なので恒久化できないというのが財務省の主張なのだと思います。であれば、NISAは”特別な例外”ではなく、日本における投資の”原則”としましょう。
 iDeCoについては「確定拠出年金法」が定められています。同様にNISAの法律も立法できるはずです。
(2)NISAの恒久化はすべての日本の居住者に適用される平等な施策

 誰もが社会の構成員として税を広く公平に分かち合っていくため、税の制度は「公平・中立・簡素」が原則となっています。
 このうち「公平の原則」とは、経済力が同等の人に等しい負担を求める「水平的公平」と経済力のある人により大きな負担を求める「垂直的公平」があります。近年は、「世代間の公平」が重要となっています([なぜ、税を納めなければならないのでしょうか] 税の決定者 | 税の学習コーナー|国税庁)。
 財務省は、NISAの恒久化が”富裕層優遇策”となることを恐れています。「垂直的公平」に反するものであることを理由としているようです。

 しかし、ここでいう「富裕層」とは誰のことでしょうか?

 野村総合研究所ニュースリリースによれば、「超富裕層」とは純金融資産が5億円以上、「富裕層」とは純金融資産が1億円以上5億円未満、「準富裕層」が5000万円以上1億円未満の世帯をいいます(野村総合研究所、日本の富裕層は127万世帯、純金融資産総額は299兆円と推計~ いずれも前回推計(2015年)から増加、今後、富裕層の次世代である「親リッチ」獲得競争が活発化 ~ | ニュースリリース | 野村総合研究所(NRI))。
 現在のつみたてNISA枠は1人当たり40万円/年×20年の合計800万円で、仮に世帯の人数を2人とすると世帯当たり1600万円となります。

 純金融資産が1000万円の人にとってつみたてNISAは80%(800万円)まで非課税で運用できる枠となりますが、純金融資産が1億円の人にとってはつみたてNISAは8%(800万円)しか非課税で運用できる枠がなく、非課税枠を切望するのはむしろ金融資産が少ない人のように思います。
 仮に”NISA枠は今でも余っている”という主張に理があるとしても、これは生涯に使える枠の上限金額を一定額に制限すべきという主張の根拠にはなりますが、恒久化に対する反論にはなりません。恒久化すると”いつでもだれでも”利用できる制度となるだけです。

 誰でも働いている間に病気になったり妊娠・出産を経て子育てをしたりと、それまで積み立ててきた金額と同じ金額をつみたてるわけにはいかなくなる事態も生じます。例えば子育てをすると1人が成人するまでに20年かかります。せっかく親世代が20歳でつみたてNISAを初めても25歳で出産すると45歳までは減額した金額のつみたてにならざるをえなくなったりするわけです。その間につみたてNISAの期間が終了してしまうとすると、どうせ枠が無駄になるくらいならつみたてNISAを利用しないでおこう、との判断に至ってしまいます。

 NISAは日本の居住者であれば誰でも使える制度であり、年齢・性別・学歴・国籍などによる区別はありません。心身に障害がある人であっても運用による利益が非課税で得られる制度です。

(3)NISAを恒久化することにより失うモノ、得るモノ

 NISA恒久化によって国全体で得られる利益を計算した資料が見当たらなかったので、ざっくり計算してみました。

 ①失うモノ
 NISAを恒久化すると失われるのは、一定の金額の所得税(譲渡益)収入です。
 国税の収入は、2018年現在で、所得税19.0兆円、法人税12.2兆円、消費税17.6兆円、相続税2.2兆円(2 「税」の現状を知ろう---もっと知りたい税のこと 平成30年6月 : 財務省)。
 2021年12月末現在、NISA口座(一般・つみたて)は1765万口座。うち一般1247万口座、つみたて518万口座。ジュニアは72万口座。1人1口座なので、1837万人がNISA制度を利用していると推計します。同年10月現在の日本人口は1億2550万人なので、約14.6%の人がNISA口座を使っていることとなります(NISA・ジュニアNISA口座の利用状況に関する調査結果の公表について:金融庁)。
 NISA(一般・つみたて)における買付額の合計は25兆4565億円。うち一般24兆175億円、つみたて1兆5290億円。ジュニアは4665億円。合計25兆9230億円。これにより得られた利益を仮に20%として同額を売却した場合に得られる税収(15%)は、7777億円 。
 また、NISA(一般・つみたて)の受取配当金額は3659億円、ジュニアは37億円、合計3696億円。これらの配当への課税により得られたはずの税収(15%)は554億円。

 よって、譲渡益と配当で8331億円の減税をしていることになります。もし、NISA口座の利用者が倍になり、それらの新規加入者も既存加入者と同額を投資したとすると、1兆6662億円の所得税収入がなくなることになります。

②得るモノ

 NISAが恒久化し、証券取引が活発になると、株式や投資信託の売買により証券会社が得る手数料、投資信託の運用会社が得る信託報酬が増えます。現在、NISA(一般・つみたて)、ジュニアNISAの買付額25兆9230億円に対し、0.2%の手数料・報酬がかかっているとすると、518億円の手数料・報酬が得られているはずです。仮にNISA口座数が倍になるとすると、新たに518億円が加わり、合計1036億円の収入が得られるはずです。
 また、2021年中のNISA(一般・つみたて)の売却額は3兆1780億円、ジュニアNISAの売却額は403億円、合計3兆2183億円にのぼっています。これらの売却金は、住宅費、教育費、老後の費用など、まとまった金額の商品・サービスに使われていると推測されます。

 NISAにより売却額の20%の利益を得ていたとすると、2021年中にはNISA制度により6337億円の収入が得られています。仮にこれが倍の金額になったとすると、1兆2873億円の収入が得られることになります。

 加えて、NISA口座で購入した株式や投資信託の値上がりにより、(まだ売却していない分について)年利4%の収益が得られたとすると、単利で年に1兆369億円が得られることになります。仮にこれが倍の金額となったとすると、2兆738億円の収益が得られることになります。

③ とすると、NISAの恒久化により仮にNISA口座保有者が今の倍になった場合に、得るモノは3兆4647億円の企業・個人の収入、失うモノは1兆6380億円の所得税収入であり、差引1兆8267億円、国全体としては儲かるはずです。

④ 財務省とはどのようなところかというと、 

効率的で持続可能な財政への転換を図り、この財政構造を各般の構造改革とともに推進することで、民間需要主導の持続的経済成長の実現を目指します。
少子・高齢化、国際化など経済社会の構造変化に対応できる21世紀のあるべき税制をきずきます。

という組織のはずです(財務省について : 財務省)。

 少子高齢化が急速に進む社会の中で、いくら労働力を増やそうとしてもおのずと限界があります。労働者の頭数を増やしたとしても、年齢、性別、体格差などもあり、皆が同じように長時間健康に労働力を提供できるわけではありません。これを解決するために、NISA制度を恒久化し「貯蓄から投資へ」を実現して、国民全体の収入を増やそうとすることは、少子高齢化による経済社会の構造変化に対応するためのあるべき税制だと考えています。

 NISA制度の恒久化を強く希望します。

 

では、また。